インタビュー Interview

阿部 修
運航部 部長代理 機関長 阿部 修 Osamu Abe

突然拓けた、客船での仕事

私にとって船での仕事は当たり前の進路でした。宮城県の港町出身でしたので父親も親戚も全員漁師という環境、いずれ海が自分の職場という意識を持ち育ちました。私が社会に出る当時、200海里問題などで漁業が少し重苦しい雰囲気もあり、他の選択肢を考える必要がありました。結果、コンテナ船やばら積み貨物船などを運航している外航船社で船乗りの第一歩を踏み出したのです。すると数年後、同社で客船事業を立ち上げるという話が。貨物船で訪れたバンクーバーで目にした華やかなクルーズ客船。いずれこんな船で仕事をしてみたいなとおぼろげながら考えていた私は、このプロジェクトに参加する決心をしました。それが1989年にデビューした小型客船です。以降、客船の仕事一筋、そしてR YACHTの新しい客船と、船での仕事が続いています。

華麗な世界を支える影のマイスターとして

安全安心な航海を裏方として支えるということは貨物船と変わりません。しかし、客船ですのでお客様の快適性という視点が求められます。音、振動、臭いなどの対策は大きく機関部が関わる仕事です。時には予期せぬ機械トラブルや、台風など天候が原因でのアクシデントも発生し、徹夜で修理ということも。お客様に悟られないように、我々がやらなければ船は動かないという意識を強く持ち、裏方で対応するのが機関士の仕事です。ある時の世界一周クルーズでは、その終盤、毎日エンジンにやさしく声をかけていました。「もう2週間、この調子で日本までお客様を連れて帰ろうな」と。機械ときちんと向かい合う姿勢も大切な要素だと思います。

楽しみも苦しみも分かち合える職場で

最初に乗船勤務したクルーズ客船は小型船でした。船内空間がコンパクト、それゆえに乗組員同士が皆、仲良く、喜びも苦しみも全員で分かち合うという雰囲気でした。まさに一つの家族のように。R YACHTの新しい客船でも、そのような雰囲気で仕事ができるのではないかという思いです。すでにプロジェクトチームが立ち上がり、陸上のオフィスにメンバーが集まってきていますが、すでによい雰囲気が構成できていることは嬉しい限りです。
もう一つの理由として、次の世代を担う客船の機関士を育てていきたいと考えています。船乗り人生での私の最後の恩返しではありませんが、先輩から受け継ぎ、自ら手を動かして蓄えてきた技術や哲学みたいなものを新しい客船を舞台に継承できたら。自ら率先して動き、「機械を見る、機械を知る」ことができる次の世代の機関士たちと新しい船の上で出会えることを楽しみにしています。

自分のいるべき場所は船

船に搭載する機械の選定、船内のライフライン、配管の図面確認作業を進めています。先日、発電用のディーゼルエンジンを見てきました。久しぶりにエンジンから漂う「油」の匂いを嗅ぐと、自分のいるべき場所は陸ではなく、船だな!と再認識しました。来年の春ごろには、造船所のあるポルトガルに渡り、建造を見守る予定です。日々、期待感が高まりますね。

完璧な仕事のためには

仕事柄、健康管理は大切ですので、時間を見つけてウォーキングをするようにしています。夏場ですとエンジンルームは40°C近くにもなります。陸にいるうちに体がなまってしまっては、新しい船でしっかりと仕事を進めることができませんので。